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1、警鐘
「われわれが相互につながっていることをいまだに理解していないのは、信じられない。だからこそ、私はオミクロン株を究極の証拠と呼んでいる」
これは、AFP通信が報じている、国際赤十字・赤新月社連盟のフランチェスコ・ロッカ会長の言葉である。ロッカ会長は、いくら先進国の接種率が上がったとしても、ワクチンが公平に配分されず、接種率が低いまま感染の拡大が止まらない国がある限り、変異株が生まれる可能性は止まらない、オミクロン株はその究極的な証拠だというのだ。だからこそ、世界中の人びとが危機から脱するためには、結局はワクチンの公平な分配こそが近道だと指摘しているのだ。
(『AFP通信』2021年12月4日の記事)
「オミクロン株、ワクチン格差の危険性示す「究極の証拠」 赤十字」
https://www.afpbb.com/articles/-/3379138
実際、WHOによると、新型コロナウイルスの変異株であるオミクロン株が発生したアフリカでは、ワクチンを2回接種した人の割合が、いまだ全人口の6%にしか達していないという(※)。
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2、歴史
こうした警鐘にたいし、もしかしたら、「途上国では公衆衛生がきちんとできていないから問題なのだ」とか「不正や汚職がはびこっていて行政がうまく機能していないから途上国自身に責任があるのだ」「とんだとばっちりだ」という怒りにも似た考えをもっている方がおられるかもしれない。
でも、ちょっと待ってほしい。そうした考えかたは、歴史をきちんと辿ってみれば正当な意見だとはいえないことがわかってくる。
アフリカ大陸では、とくに、大航海時代が始まって以降、西欧諸国による資源の搾取が時代を経るとともにひどくなった。それだけではなくて、アフリカで暮らす人びとが奴隷としてアメリカ大陸やヨーロッパに連れていかれることもあった。
帝国主義の時代になると、国境線は西欧諸国によって勝手に引かれた。
第2次世界大戦後は、独裁国家が誕生しても、鉱物資源を確保するのに都合がよければ、西欧諸国はそこでの人権侵害や不正の横行を不問に付した。
つまり、途上国が抱えている困難は、経済のグローバル化が始まった歴史と軌を一にしていて、なおかつ、西欧諸国による資源やいのちの搾取や人権上のダブルスタンダードにこそある可能性が高いのだ(このような環境破壊の問題について詳述した単著を6月に発刊する予定です)。
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3、希望
それでもなお、「でも日本は関係ないのでは?」と思われる方がいるかもしれない。けれども、日本もまた、アフリカ大陸から違法に採掘された鉱物などを輸入しながら経済発展を遂げてきたので、アフリカが現在困難な状況にある責任から逃れることはできない。つまり、ワクチン格差の根源にある南北格差の要因を歴史的に辿っていくと、先進諸国には多大なる責任があるということが浮き彫りになるのだ。
グローバルな格差は、歴史的につくられたもの、人為的なものなのだ。そして、新型コロナウイルスのパンデミックが起きているいま、そうした格差に根差した先進諸国の生活の裕福さは、寄宿先の人間を区別しないウイルスの前ではなんら意味を持たないという現実を、私たちに突き付けている。
そうであるならば、私たちが考えるべきなのは、ワクチン格差をもたらすような南北格差をこれからどうやって改善していくか、という問題ではないだろうか。そして、世界中の人びとが幸せに暮らせるような世界の到来こそが、ひいては、きたる新たなウイルスなどの脅威へ対抗するいちばんの免疫となるはずなのだ。
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(※)『時事ドットコム』2021年11月30日記事「『ワクチン格差』に起因か オミクロン株拡大、是正急務」