~~~~~
1、混乱
もしかしたら、大臣は、昨年の混乱を恐れるあまり、公平性という論理を持ち出し、自治体からの要請を抑えにかかったのかもしれない。
昨年の混乱とは何か?
それは、昨年の7月はじめごろに起こった、ワクチンを打ちたくても供給量不足で打てない人が続出した、あの混乱である。当時は、多くの自治体や国民から「さんざん早期接種を急かしておきながら、なぜワクチンが足りないんだ!」という批判も巻き起こった。
とくに都市部において、自治体での接種がなかなか受けられなかった。私自身、予約時間開始と同時に府中市のホームページを開いても、なかなか予約が取れなかった。それだけではなくて、職域接種の募集も急遽中止になったりした。
だから、大臣は、同じような混乱に陥る事態を避けたかったのではないだろうか?
◇◆◇◆◇
2、停滞
でも、もしもこの予想が当たっているとしたら、保坂展人世田谷区長が早期の3回目の接種をと要請した11月上旬は、ワクチンの供給が滞ると予想されていたことになる。
実際のところ、どうだったのだろうか?
これまでの供給実績とこれからの供給予定を厚生労働省のホームページで調べてみたけれど、3回目のワクチン供給が滞りなく行われているとは言い難い状態にあるようだ。
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/vaccine_supply.html
これまでに供給されたワクチンは、医療従事者分が994万4220回分、一般市民分が1億6893万6105回分。ちなみに保坂世田谷区長が要請した11月は、405万2880回分しか調達できていなかった。
肝心なこれからのワクチン供給予定だけれど、モデルナ社製が1月24日の週(来週)に1570万4700回分配送される見通しのほかは「予定」となっている。ファイザー社製のワクチンが2月14日・21日の週にあわせて1000万2220回分となっているけど、これも「予定」だ。
こういう状況を鑑みると、昨年11月の段階では、3回目の接種用としてワクチンをふんだんに供給できる見通しが立っていなかったといえる。だからこそ、こうした事情をわかっていた大臣は、昨夏のような混乱を避けるために、公平性の論理をもちだし、3回目の接種を急ぐ自治体に「待った」をかけたのではないか。
そう推察されるのだ。
◇◆◇◆◇
3、恐れ
それに、昨年7月当時の混乱と批判は、菅政権が倒れる最大のきっかけだったといっていい。
同じような事態が連続すれば、当然「政府はなにをやっていたんだ!」という批判が強まるだろう。
ヘタをすると、政権への打撃にもなりかねない。
ワクチン不足による混乱と、それによって政府への批判が起こる恐れ。
これこそが、大臣が3回目の接種の前倒しに踏み切れなかった要因なのではないか。
そういう気がする。
ちなみに、弊ブログ【新型コロナウイルス問題40】で紹介したとおり、昨年7月の供給不足も、実は当時の河野太郎担当大臣は知っていた。
『日刊ゲンダイ』の記事によれば(※1)、昨年の混乱さなかの会見で、「米モデルナ社製のワクチンについて、河野大臣は「当初の契約は6月末までに4000万回分ということになっておりましたが、その後モデルナ社との協議で調整し、供給を受けたワクチンは1370万回分」であり、しかも供給が減ると通告を受けた時期がゴールデンウィーク前だったと回答したというのだ。
私だったら、こんな隠蔽にはてられない。ある意味すごい。
でも、現大臣は、河野大臣のような隠蔽はできないお方なのだろう。
それに、隠蔽という大問題を2度にわたって起こせば、それこそ政権の命とりになりかねない。
こういった恐れが、大臣を躊躇させてしまったのではないだろうか?
◇◆◇◆◇
4、発信
でも、もし、大臣が次のようなメッセージを発信していたら、どうだったろう?
「実は、ワクチンの供給の見通しが、多くの人がいちどに3回目の接種を受けられるほど立っておりません。でも、あらたな変異型のオミクロン株が南アフリカ共和国にて発見されました。事態は一刻を争います。お年寄りや基礎疾患のある方など、リスクの高い方から順に、できるかぎり早くワクチンを打っていってほしい。自治体のみなさんには、早期の3回目接種を可能な限り早く開始してほしい。でも、もしかしたら、その途中で、昨年の夏のように、一時的なワクチン不足による混乱が生じるかもしれません。それは、ひとえに担当大臣である私の責任です。でも、いのちには代えられません。多くの国民のいのちを救いたい。ですので、どうかみなさま、ご理解ください。」
こういうメッセージを発信していたならば、いまのように「なぜ遅らせたんだ!」という非難はされなかったかもしれない。ましてや、国内でワクチンが開発できないなか、大臣も国民のいのちを第一に思って頑張ってくれているのだからと賞賛すらされたかもしれない。
そう考えると、公平性という理屈を持ち出して時期を遅らせたのは、公衆衛生の観点だけでなく、政治的にも間違いだったのではないか、と思えてくる。
◇◆◇◆◇
5、摘芽
しかも、国内でワクチンが開発できない状況に陥っている事態については、現ワクチン担当大臣に直接的な責任はない。
むしろ、国内でRNAワクチンを開発できるかもしれない最後の芽を摘んだのは、安倍政権によるワクチン開発の基礎研究費の打ち切りだった(※2)。
この件も含めて率直に政府としての非を認め、前述のような内容で前倒ししてほしいと依頼すれば、その熱い思いが、自治体の長にもその思いが届いていたかもしれない。国民にも届いていたかもしれない。
たんに聴くふりをするのではなく、真に人びとの声を聴き、反省し、対応をかえられる指導者には、国民はついていくと思う。
だからこそ、大臣には、率直なメッセージを発信してほしかった・・・。
インフルエンザの何十倍もの感染力をもつといわれるオミクロン株。オミクロン株はもちろん聞く耳などもってはいないから、政治の事情を忖度して暴れまわるのを待ってはくれない。
~~~~~
(※1)『日刊ゲンダイ』引用記事
https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/life/291638
(※2)関連記事(『日刊ゲンダイ』)