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1,改憲への扉を大きく開けた国民投票法の改正
5月11日に衆議院本会議を通過した国民投票法改正案は、今、参議院の憲法審査会で大詰めを迎えている。
https://www.jiji.com/jc/article?k=2021060201130&g=pol
もし、改憲が発議され、いざ国民投票となったとき、潤沢な資金をもつ側の意見がシャワーの如くテレビCMなどで流されたら、公平性が保てない。それが、野党が一貫して疑問視してきた点だ。
https://www.huffingtonpost.jp/entry/story_jp_60948a78e4b05bee44c7ca00
だから、広告規制のあり方については、第一次安倍政権時の2007年に国民投票法が成立して以来、焦眉の課題として積み残されていた。
けれども、改憲したい与党の側から見れば、広告規制の条項づくりなどするメリットはない。たとえば、領収書の要らない官房機密費をじゃんじゃん投じて改憲派のCMや広告をどんどん流すことができれば、それだけ有利になるわけで、広告規制など「自由」な広報活動の足枷にしかならないのだから。
ただし、それは倫理的にいかがなものか、という根強い批判は、どうやら与党も気にしているらしい。
だから、改憲をさせたくない野党の側からしたら、広告規制のルール作りに関する議論のテーブルにのらないことが、すなわち、改憲の日程を先送りするための戦術ともなっていた。
それゆえ、今年の通常国会で、広告規制のあり方を法の改正から3年以内をめどに話し合うべしという立憲民主党の修正案が盛り込まれ、国民投票法の改正案が事実上成立したという事実は、改憲への扉を大きく開くものになった、といえる。
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2,おもしろい見方
けれども、立憲民主党の修正案は、むしろ改憲の発議に蓋をするための戦略だったのではないか・・・?
そう推理するのが、「国民投票法改正案、賛否割れても崩れぬ野党 自民の「立憲・共産分断」策は不発」という記事を書いた尾中香尚里さんである。
https://nordot.app/763412549232852992?c=39546741839462401
この記事を読んで、ああ、そういう見方もできるのかと、その鋭い着眼点に驚いた。
さっきも書いたように、改憲を目指す与党にとっては、広告規制のルールは足枷にしかならない。
だから、広告規制を云々する修正案に応じる必要はない。
それなのになぜ、自民党は、国民投票法改正の審議で、立憲民主党の修正案を吞んだのか?
それは、与党が、野党、とりわけ立憲民主党と共産党との間を分断し、きたる総選挙に向けた協力にひびを入れようとしたためだったのではないか、と尾中さんは推察する。
ところが! この間の各政党の動きを見ていると、実際には、立憲民主党と共産党のほうが一枚も二枚も上手だったのではないか、と尾中さんは分析するのだ。
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3,野党のほうが先を見据えて動いていた?
どういうことか? ひとことでいえば、今回、立憲民主党の修正案を与党が呑んだことで、実質的には、立憲・共産両党が避けたい憲法改正の発議を遅らせることができ、しかも副次的効果も得られたと尾中さんはいうのだ。
第1に、今回の修正案で、憲法改正の発議が可能な時期は、衆議院選よりもずっと後にずれ込んだ。
都議選、東京オリンピック、自民党総裁選と続く日程のなかで、臨時国会を召集して広告規制の議論をするのは、かなり難しい。だから、実際に憲法改正の発議があったとしても、それは衆議院選が終わってから相当あとの日程になる。
第2に、その結果、改憲に積極的な議員のいる国民民主党との決裂を、当面は避けることができ、総選挙での野党間の亀裂を最小限に抑えられるという副次的効果も得られた。
立憲・共産両党は、実は、このように先を見据えた動きをしていたのではないか。
そうだとすると、野党の政治はかなり成熟しているといえるのではないか。
尾中さんはそういうのだ。
たしかに、もし尾中さんの見立て通り、立憲・共産両党の分裂が与党の思惑だったとしたら、現在も両党の連携が続いているのをみると、不発に終わってしまったようにみえる。
だから、尾中さんの記事は、かなり刺激的な、興味深い分析だ。
この推理には、〈なるほど~〉と唸らされた。