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1、間違ってはいない首相の答弁
今日の「関口宏のサンデーモーニング」も、新型コロナウイルス問題の特集から始まった。
見ていると、にわかには信じがたい菅首相の言葉が飛び込んできた。
「GoToトラベルが、感染拡大の主要な原因であるとのエビデンスは、現在のところは存在をしない」
「GoToトラベルが、感染拡大を助長したのではないですか」という、立憲民主党の枝野幸男代表の質問にたいする応答である。
(参考)『TBSニュース』11月25日配信
「菅首相「GoTo感染拡大のエビデンス存在しない」」
首相の答弁は、たしかにその通りだ。何も間違えてはいない。
しかし、エビデンスがないのは、無症状感染者をふくめた調査がなされていないからにほかならない。つまり、エビデンスとなるデータがそもそもないのだ。
そうであるなら、たとえば、観光地に行った人たち、そこで働いている人たちすべてのPCR検査を行い、どれくらいの確率で感染しているかといった疫学調査をしなければならないはずである。そうでなければ、市中感染がないとも言い切れないのだから。
だから、首相の言葉は、間違えてはいないけれども、感染しているかどうか把握しようともしていないという点で、相手の指摘を否定する言葉とは到底なりえないのである。
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2、公害と共通する姿勢と予想される結果
ここで思い出されるのが、弊ブログでも指摘した(2020年5月15日記事「【コロナ問題と公害との共通性2】 わざと全体像を把握しない!?」)、経済を優先し、原因を究明しようとしなかったがために被害を拡大させた公害発生時の政府の対応である。
すでに5月15日の記事で書いたことだけれど、水俣病問題で、政府は、原因物質がわからないから、自分たちに責任はなかったんだと言い続けた。その結果、10月28日の弊ブログ記事で紹介した西村肇さんが、しがらみから解放されたあとに原因を究明されるまで、水俣病のメカニズムはわからないままだった。
Go To トラベルも、エビデンスがないんだから対策の必要などない、という言い逃れをしたいにおいがプンプンする。
どちらにも共通するのは、きちんと公的な調査をせず、しかもそれを言い逃れの理由としている、という点だ。
水俣病の場合、そうして12年間放置された結果、どうなったか? 多くの人がしなくてもいい発病をし、多くの方が落とさなくてもよかったはずのいのちを落とした。それだけではない。対策を怠った結果、結局は、経済活動にもおおきな弊害が及んだ。原因企業だったチッソ株式会社は、賠償すべき金額が膨れ上がって業績が圧迫された。
Go To トラベルも、閣議では抑え込んでから実施されるはずだったのに、前倒しで実施した結果、感染を拡大させてしまったかもしれない。因果関係の究明はこれからだけれど、もしもGo To トラベルが感染拡大の原因だったとしたら、結局は、経済が大事だといいながら経済活動を抑制する結果となった水俣病と同じ轍を踏むことになる。
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3、Go To トラベルを今すぐいったん中止すべき理由
では、どうすればいいのだろう?
菅首相は、Go To トラベルが原因で発症した人は200人もいないという。
けれど、実態は、たとえ発症した人と過ごした人であっても、一定時間以内だったり、きちんと対策を立てたりしていたら、保健所から濃厚接触者とは認定されず、検査もしてもらえない。しかし、そうした人が無症状感染者となっている可能性も否定はできない。
そうである以上、Go To トラベルが原因で市中感染が拡がっているのかどうかは判断できないというのが、現時点での科学的見解のはずである。
だとしたら、どうみても市中感染が拡がってしまっている現段階では、観光地での疫学調査をし、Go To トラベルによる市中感染が拡がっているのかどうか判断できるようになるまで、いったん中止するのが、現段階で政府のとるべき責任ある途ではないだろうか?
と言ってはみたけれど、科学をとことん毛嫌いしているように映る現政権には、そうした判断を期待するのは、ないものねだりなのかもしれない。
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4、北九州市モデル
未知のウイルスの感染が広まっている中で経済対策を同時に進行させようと思ったら、無症状の人も含めてとにかく感染状況を把握するのが重要である。新型コロナウイルスは、無症状でも感染させてしまうということがわかっているのだから。
これも弊ブログで何度も指摘してきたことだけれど、政府は、そうすべきだとどれだけ外野から指摘されようと、まったく耳を貸してこなかった。
しかし、無症状者を含めた感染者の把握をすることこそ、安心した経済活動につながるという実例がたくさん存在する。そのような地域は、台湾のように成功しているところだけでなく、国内にもある。和歌山県、鳥取県などがその優良事例だけれど、今朝のサンデーモーニングで松原耕二さんが紹介されたのは、北九州市だ。
北九州市では、感染の第2波で感染者をかなり出してしまった自治体である。ただし、それは、その反省から、PCR検査を徹底して行うようになった、攻めの政策の結果だった。
(参考)『西日本新聞』2020年5月31日記事
「北九州モデルで「第2波」対抗へ 濃厚接触者全員にPCR検査」
松原さんが市長に聞いた話として紹介されたのは、発症した人の周りで、たとえ濃厚接触者に該当しない無症状者でも、徹底してPCR検査をしてきたからこそ、いまも感染者の発生を抑え込めているということ、その結果、経済活動も可能になっているということだった。
いまだに公害と同じ轍を踏んでいる政府の対応。経済活動とコロナ感染の防止とを両立させている、諸自治体の対応。どちらがとるべき途かは、おのずとわかってくるはずなのだけれど・・・。