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ものぐさ講師の徒然日記

窓際大学教員が、日々の暮らしで感じたことを、徒然なるままに綴っています(日・木曜日に更新)

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【メディアの問題4】パンケーキ懇談会から考える

Posted on 2020年10月5日2020年10月6日 by monogusalecturer2021

◆えっ、出席したの!?

 現首相と記者クラブとのパンケーキ朝食懇談会が、10月3日に行われた。

 前首相の記者会見が開かれるたび、記者クラブメディアは疑惑を追及する気があるのかとネットで批判されてきた。それなのに、いろんな報道番組に圧力をかけ、キャスターを交代に追い込んだ張本人ではないかと噂されている前官房長官の懇談会なんかに出席までしたら、なんのための報道機関なんだと、非難の声がさらに高まりかねない。

 だから、マスコミ各社はこぞって「そんなもの出席するもんか!」と突っぱねるだろう。そう思っていた。

ところが、ふたを開けてみたら、出席しなかったのは、どうやら東京新聞、京都新聞、朝日新聞の三社だけ・・・。

「えっ、ほかの大手メディアの記者さんたちは出席したの?」

 率直な驚きだった。

◆世界標準のメディアの姿勢=とにかく権力と距離を置く

 フリージャーナリストの上杉隆さんや烏賀陽弘道さんの本を読んで知ったのだけれど、海外では、そもそも、権力者との懇談会でネタをゲットするという行為自体がありえないらしい。権力者に取材を試みる場合は、出されたコーヒーにすら手を付けないらしい。

 世界中の記者は、それくらい、癒着が生じないよう徹底している。

 そもそも情報は、文春砲のように、自分たちで歩いて取材し、調査してゲットする。徹底的に現場を歩いて、他社の知らない情報を集め、スクープする。

権力者との懇談で小出しにされ、記者クラブどうしでメモを回すからどのメディアでも知っているような情報など、取材で得た情報とは言わない。それが世界標準なのだそうだ。

一週間後に再度の開催が予定されていたパンケーキ懇談会が、世論の非難の高まりを受け、中止される見込みらしい(※1)。世界標準に照らせば、本当なら、官邸が中止というのではなく、記者クラブの記者全員が欠席すべきなのだろうけれど・・・。

なんだか、世界中に日本の大手メディアの恥をさらしてしまったのではないかと、勝手に心配になる。

◆影の薄い大手メディア

私が調査でおじゃまする地域には、政策によってもたらされた問題が、たくさん転がっている。地域の方たちが、苦しんでいる。しかし、そこにフリージャーナリストの存在はあっても、大手メディアの影はほとんどない。

ネットで大問題になっている出来事が、テレビでいっさい報道されないということも多々あって、正直ビックリする。

第四の権力といわれるマスメディアには、社会のダークサイドを照らして見える化し、行政権力の正当性を判断する材料を有権者に提供する姿勢こそ、求められているはずなのに。

「ジャーナリズムとは報じられたくない事を報じることだ。それ以外のものは広報に過ぎない」。最近いろんなところでよく紹介される、ジョージ・オーウェルのこの言葉が、妙にしっくりくる(※2)。

だからなのだろう、私が社会で起こる出来事に関心を持ち始めてからたった四半世紀なのだけれど、その間にも、日本の報道番組は、どんどんつまらなくなっている。

◆日本の大手マスメディアの組織的弊害

だがしかし、大急ぎで断っておくと、日本のマスメディアには、良識ある記者のみなさんが力を発揮できない組織的な要因もある。

これも上杉隆さんの著書で知ったのだけれど、先進国のマスメディアでは、経営陣と報道陣とが基本的に緊張関係にあるそうだ。経営陣が自分たちの意に沿う報道をするよう現場に介入しようとすると、対立が起き、麻痺してしまうそうだ。たとえば、最近、テレビ朝日で「報道ステーション」のスタッフが経営陣の意向で離散させられる事件があったけれど、このときのように簡単に報道陣が従わされるようなことはないらしい。

では、なぜ日本のマスメディアでは、経営陣の意向がまかり通ってしまうのか? それは、日本の大手テレビ局や大手新聞社のなかで、政治部出身の大物記者が、経営に参画していくレールが出来上がっているからだと上杉さんは指摘している。そもそも記者が経営に参画するのがおかしいのだけれど、それはともかくとして、記者が経営者になったらどうなるか。後輩は、先輩になかなか逆らえない、とくに日本では。

だから、権力者にとって、気に食わない報道に圧力をかけるには、太いパイプのある大手メディアの経営陣(先輩記者)にひとこと言うだけでよい。なぜなら、経営に参画している先輩記者は、後輩の記者を黙らせればいい、言うことを聞かなければ配置転換すればいい、ということになるのだから。

そうだったんだ! そういうカラクリがあるから、良識ある記者さん含め、沈黙させられてしまうんだ! 納得がいった。

◆心ある記者や番組を応援しなければ!

 そのように、組織内の経営陣と報道陣との力関係が、海外のマスメディアと違い、上意下達の関係になっている以上、心ある記者やテレビマンを支えられるのは、私たち一視聴者、一読者しかいない。

だから、良識ある記者が干されそうになったり、良識ある特集をバンバン組む番組が潰されそうになったりしたら、テレビ局や新聞社にたいし、一視聴者、一読者として、それはおかしいのではないかと、もっとその記者の記事が読みたいし、あの番組の特集が見たい、と率直な感想を送り、心ある記者や番組を応援しなければならないのだ。

リニア新幹線の工事で苦しんでいる地域でも、原発の立地地域でも、おかしいと声をあげている住民に寄り添ってくれていた記者さんが飛ばされた、という話をしばしば耳にする。

そんな、開発独裁国家みたいな話は、もう終わりにしないといけない。

◆一市民からのお願い

 大手メディアの良識ある記者のみなさま、お願いです。どうか、権力と癒着して表の情報を流すだけの広報はやめてください。社会で苦しい立場にある人びとや地域を取材によって照らし、改善すべき問題点としてどんどん発信してください。おかしい司法判断や立法がなされたら、徹底的に問題点を究明してください。

 そうでなければ、私たち市民は、行政権力が、司法権力が、立法権力が、公平性をもって行使されているかどうか、判断することができなくなってしまいます。過去の過ちを繰り返さないためにも、どうか踏ん張ってください。応援しますから。

 一視聴者、一読者からの切なる願いよ、どうか届け!

【注】

(※1)「スガ首相と記者クラブとのパンケーキ朝食懇 世論の反発を浴び次回は中止」『田中龍作ジャーナル』2020年10月4日(日)記事 https://tanakaryusaku.jp/

(※2)実際には、ジョージ・オーウェルの言葉じゃないのでは、という説もあるらしい。

【参考文献】

・上杉隆(2008)『ジャーナリズム崩壊』幻冬舎新書

・上杉隆、烏賀陽弘道(2012)『報道災害【原発編】事実を伝えないメディアの大罪』幻冬舎新書

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