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ものぐさ講師の徒然日記

窓際大学教員が、日々の暮らしで感じたことを、徒然なるままに綴っています(日・木曜日に更新)

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【労働と環境1】ミスターどうでしょうの言葉から考えたJR東日本での出来事

Posted on 2020年9月27日2020年9月27日 by monogusalecturer2021

◆ミスターどうでしょうこと鈴井貴之さんの言葉

毎日、仕事と家事、育児に精力を傾ける日が続いていたので(当たり前なのだけれど)、昨夜は無性に『水曜どうでしょう』が見たくなった。

何か月ぶりだろう? 「ヨーロッパ21か国完全制覇」のDVDをいれる。そうだ、久方ぶりにメインメニューのシークレット映像を見てみよう。

でも結局は、部屋の片付けという家事をこなしながら聴いていたのだけれど、ミスターどうでしょうこと鈴井貴之さんとディレクター陣とのやりとりが、耳に留まった。

・鈴井さん:実は合わない人間同士のほうが、いろんな可能性というか、頑張ろうともするし~、うん、実はそういうほうがいいの。で、合う人間たちばっかりで、いわゆるイエスマンみたいな人間ばかりを集めていくと、けっきょくダメんなっちゃうの。

・嬉野さん:一本調子になっちゃうんだよね。

・鈴井さん:そうなんですよ。

・藤村さん:全くその通り。

 いつもなら、この前の恋愛の話にいつも納得しているのだけれど、今日はこの部分にアンテナがピンときた。というのも、お昼にみた『田中龍作ジャーナル』(9月25日付記事「新幹線運転士から埼京線に降格 ジョブ・ローテーションが危うくするJRの安全」)で紹介されている、JR東日本のなかで進んでいる問題の本質を見事に突いていると思ったからである。

 では、その問題とはいったい何なのか、次に紹介してみよう。

◆JR東日本で進んでいる恐ろしい話

『田中龍作ジャーナル』の記事によると、新幹線運転士のAさんは、希望もしていないのに、埼京線の管区に配置換えになったという。そして、年間20~30万円も給与が下がる見込みらしい。

だいぶ前、ニュースで定年を迎える新幹線運転士さんの一日を追ったドキュメントを見たのだけれど、新幹線は、きちんと教育を受けた人でないと運転できない。その運転士さんは、安全運行をするための、その方なりの詳細なメモを記した手帳を持ち歩いていた。時速300kmにもなる新幹線の運転には、それくらい重い責任が伴うんだな、と感嘆したのを覚えている。

だから、Aさんの話は、にわかには信じられない。大学でたとえるなら、何ら失態はおかしていないのに、ある日とつぜん学部長に呼び出され、教授から准教授への降格を命じられるようなものだからだ。

 では、新幹線運転士のAさんはなぜ、希望もしていない降格人事となったのだろう?

表向きは、JR東日本が今年の4月から始めたジョブローテーションという取り組みによるものらしい。ジョブローテーションとは、運転士、車掌、駅内業務など「多様な経験を積むことで安全とサービスを向上させることを目的」とする取り組みだそうだ(※1)。

 けれども、『田中龍作ジャーナル』によると、実際には、会社にモノを言う組合(JTSU=JR EAST TRANSPORT SERVIS WORKERS UNION「JR東日本輸送サービス労働組合」)の組合員たちが狙い撃ちにされている、というのが実態らしい。

これが本当なら、モノ言う労働組合員は会社にとって目障りだから、ジョブローテーションという名のもとに、本人の意にそわない降格人事を実行している、ということになる。

 もちろん会社側は「そんなことはしていない」「配置転換と労働組合とは関係ない」というだろう。それはそうだ。労働組合活動の妨害を目的とするような配置転換や転勤の命令は、不当労働行為で違法なことなのだから。

◆福知山線脱線事故の教訓

 そうでないと信じたいけど、でも、もし、モノ言う労働組合つぶしが会社側の隠れた意図だったとしたら、結局は、会社が自らの首をどんどん締めつける結果になってしまわないだろうか?

その理由を考えてみる。モノ言う組合が潰されたら、JR東日本は上にモノが言いにくい組織になるだろう。もっというなら、上の決定に従うだけのイエスマンばかりの組織になりかねない。イエスマンばかりになったら、嬉野Dがいうように、その組織は、上意下達の、一本調子の組織になってしまう。結果、現場で問題があったとしても、だれも表立って議論しようとはしなくなるだろう。そうした組織は、たいへんな事態が起きるまで、ブレーキを失ったまま突っ走ることになるだろう。

 ここで思い出されるのが、2005年4月25日に発生した、JR西日本の福知山線脱線事故である。この事故は、乗客の安全よりも他社との競争を優先し、時間通りに電車を運行できなかった運転士を日勤教育で徹底的に追い込むという仕組みが招いたものだった。つまり、上司に、会社の方針にモノが言えない組織内風土が招いたものだったといえる。その結果、107名もの尊いいのちが奪われた。テレビ画面を見ながら、とてもショックだったのを思いだす。

 組織の風土と安全との関係性を証明したのが、福知山線脱線事故だったのではなかったのか?

 ミスターがいうように、違う人間同士がぶつかるから、みんな頑張れる。それまでになかった何かが見つかる。鉄道会社で言えば、それは安全のためのいろんな方策ではないだろうか。

◆ジョブローテーションの問題点

 労働組合うんぬんを抜きに考えてみても、ジョブローテーションという仕組み自体が、安全上の問題をはらんではいないか、と心配になる。

『田中龍作ジャーナル』の8月1日付記事によると、鉄道というのは「路線ごとに特徴やクセがある」のだという。だから、「ここはスピードをこれ位まで落とさなくてはならない。一方、落とし過ぎると定時運行が危うくなるので、あくまでも落とすスピードはこれ位まで…」という技がなければ、安全に運行できないらしい。ゲームの「電車でGo!」が超ムズカシイのも頷ける。

 そうした職人技は、長い時間をかけて培われ、それぞれの管区内で伝承されていっているんだろうな、と推測する。だとすると、経験を積んだ運転士さんが、駅内業務に配置転換されたり、ましてや安全のための難しい技をこなす新幹線の運転士さんが降格されたりするのは、安全の観点から考えると、やっぱりおかしい。現に、JR東日本では、オーバーランや信号ミスが相次いでいるという。ふたたび一昨日の『田中龍作ジャーナル』によると、2019年度、JR東日本での信号見落としは20件、オーバーランは140件で2018年度より40件も多かったらしい。

日本の鉄道は安全だとこれまで信じ込んできた身からすれば、かなりビックリする数字だ。

◆いち市民からのお願い

 テレビのバラエティー番組なら、一本調子になって面白くなくなったら、いち市民としては見なければいいだけの話。そうして視聴率が落ちた番組は、打ち切りになるだけである。でも、鉄道会社が一本調子になり、安全面で心配が出てきたとしても、いち市民としては、出勤のため、通学のため、旅行のため、鉄道に乗り続けなければならない。テレビと違って見ない(乗らない)というわけにはいかない。その結果、脅かされてしまうのは、私たちのいのち・・・。

 だから、JR東日本には、どうかいまの人事制度を見直してほしい。そして、安全を最優先しようとする社員さんたちの声に、どうか耳を傾けてほしい。ミスターどうでしょうこと鈴井貴之さんがいうように、「いわゆるイエスマンみたいな人間ばかりを集めていくと、けっきょくダメんなっちゃう」可能性が高いのだから。

【注】

(※1)『田中龍作ジャーナル』8月1日付記事「JRの安全脅かし現場に混乱もたらす『ジョブローテーション』」https://tanakaryusaku.jp/2020/08/00023370

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