◆帆高くんの純愛
4月4日の鑑賞記9で、この異常気象は人類の産業活動が原因なのに、陽菜ちゃんだけが犠牲になるなんて許せない!と帆高くんは無意識のうちに直感したのではないかと、勝手な推測を書いた。
その是非については、みなさまのご判断を仰ぐことにして、実際には、帆高くんの衝動的な救出作戦は、陽菜ちゃんのことが大好きでダイスキで仕方なくて、「何とか自分の手で救いだしたい!」という純粋な愛からでた行動だったのだ、という見方が、いちばん正解に近いのだと思う。
◆3人の勇気ある行動
そうした純愛からの行動だったためか、救出作戦はとにかく無謀だった。家族からの捜索願により警察に保護されたのに、すきをついて逃げ出し、助けに行ったものだから、警察に追撃されるハメになった。バイクに乗った夏美さんの助力のおかげで警察の追手をいったんは振り切れたのだけれど、そうしてまで陽菜ちゃんを助けだそうとした帆高くんの強い意志に、心を揺さぶられた。そんな帆高くんの思いに動かされ、警察を敵に回す結果となりながらも、バイクに帆高くんを載せて救出作戦を後押しした夏美さんのとっさの行動、祠(ほこら)のある廃ビルで、最初は「バカなことはやめろ!」と説得していたのに、帆高くんを押さえつける刑事にタックルし、逃走経路を確保した須賀さんの行動には、人間が守るべきものの大切さについて考えさせられた。
もし私が同じ立場だったら、3人のような勇気がもてるだろうか・・・?
◆もし、誰もが陽菜ちゃんの秘密を知っていたら・・・?
異常気象を解消する人柱として天に(龍に?)召されていった陽菜ちゃん。そんなの絶対イヤだと、陽菜ちゃんを必死の思いで助け出そうともがいた帆高くん。一部の近しいオトナを除いて、世間ではだれも、帆高くんを追っていた刑事たちでさえ、そんな劇的なドラマが同じ東京で繰り広げられているのに気付いていなかった。
この事実は、二人にとって、ほんとうに幸いだったと思う。
もしも、陽菜ちゃんが人柱になって天に召されたからこそ、いったんは異常気象が解消したんだと多くの人たちが知っていたら、どうなっていただろう・・・?
そう考え始めると、途端にいたたまれなくなる。なぜなら、誰もがこの事実を知っていたとなると、陽菜ちゃんを助けに行こうとする帆高くんにとっての障害は、警察の追撃だけではすまなくなっていただろうから。8月の真夏の空を取り戻したい人たちによる、もっと多くの邪魔がいろんなところから入ってきて、帆高くんが陽菜ちゃんを助け出せずに終わってしまう、つまりは陽菜ちゃんが多くの人たちから人柱として天に差し出されてしまう、という最悪の結末を迎えていたかもしれないのだから。
◆最悪の結末を予感させるシーン
そうしたもうひとつのストーリーの可能性を予感させたのが、帆高くんが線路を走って陽菜ちゃんを助けに行くシーンだった。このシーンのなかで、線路を走るというルール違反の少年に気づいた街ゆく人たちは、一心不乱に駆け抜ける帆高くんの気持ちも知らずに、「ヤバくない?」と、まるで「面白い見世物がみられてよかった」といわんばかりに、白い目線とスマホを向ける。
でも、かれらが陽菜ちゃんと帆高くんとのあいだの秘密をもしも知っていたとしたら・・・!?
もしかすると、大好きな人を只々助けたいという純粋な気持ちで走り続ける帆高くんにグワッと襲い掛かる暴徒と化していたかもしれない・・・。
気づいたら、そんな妄想が頭のなかをかけめぐって、勝手に体がゾワッとなっている・・・映画を観た日の、そんな自分を思い出した。