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ものぐさ講師の徒然日記

窓際大学教員が、日々の暮らしで感じたことを、徒然なるままに綴っています(日・木曜日に更新)

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【学生の眼5】ササラの根っこ

Posted on 2022年2月1日2022年2月2日 by monogusalecturer2021

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 本年度の学生の眼3回目の今回は、有機農業の視点から見た科学的な見方にとって大切なことをまとめられているCさんのレポートを紹介します。

「哲学」の講義では、丸山眞男が『日本の思想』(岩波新書)で言及している「ササラ型」と「たこつぼ型」の研究の違いについて紹介しています。研究というのは、分野がちがい、ひとつひとつは関係ないように見えても、その根っこの部分では、人のため社会のために有益な示唆を与えるという視点でつながっている、それがササラ型の研究である。けれども、いまのアカデミズムは、その根っこの部分を忘れてたこつぼ型になっているのではないか、というあの指摘です。

 Cさんのレポートは、栃木県で有機農業をされている舘野廣幸さんのことばから、分析的になりすぎている科学への懸念と、ササラ型の科学の重要性に迫っており、たいへん興味深い内容です。

 ぜひご覧ください。

※ご本人から許可を頂いて掲載しております。Cさんにおかれましては、掲載すべき時期が半年ほど遅れてしまいましたこと、ここに深くお詫び申し上げます。また、読みやすくなるよう適宜段落を追加しております。ご了承ください。

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〇テーマ「「科学的に見るとはどういうことか」

Cさん

 科学的に見るとはどういうことかについて、栃木県の有機稲作農家である舘野廣幸さんの著書の一部から考えてみたい。舘野さんは、自然の中の法則を見出しそれに基づいた作業をすることで除草剤や肥料に頼らずに 30 年以上安定した収量をあげてきた方である。

 例えば、田植え前後の雑草について、水田雑草が一斉に発芽するのではなく機会を見て順次発芽してくる性質を踏まえ、3 回に分けて代かき(田植え前に泥水をかき混ぜとろとろにする作業。通常は田植え前の一回のみ)を行うことで順に発芽してきた雑草を効果的に防除するそうである。また、この雑草の発芽は 5 月の末ごろまでであることから、通常5月に田植えをするものを 6 月に行うことで田植え前の雑草防除を可能にしている。(ちなみに 5 月の田植えが主流になったのは、稲の都合ではなく、連休(ゴールデンウィーク)に人出が確保しやすいためという人間側の都合だそうだ。)このような農法を確立していく過程には、既存の方法に囚われず、自然を観察し一体どうなっているのか、どうなるのかを見つけ出そうとする姿勢が不可欠であったと考えられる。

 このような自然への観察眼は、まさに哲学や自然科学の起源と同じであると言っていいのではないだろうか。またもし仮に、科学的に見るということが辞書の定義のように物事の一般法則を見出すものであるとするならば、舘野さんの見方は、目の前の自然現象から法則をみつけているという点で、科学的な見方と言えるようにも思える。

 しかし、ご自身の著書では科学に対し懐疑的な文があった。ここでの科学とはどのようなものを言っているのかをまず検討する。その上で科学的に見るとはどういうことなのか、どういうことであることが望ましいのかについて考える。
 まず有機農業は非科学的ではないかという質問に対しての舘野さんの回答を要約する。

“農業という世界は関係要因が非常に多く、しかも複雑に影響しあい常に変化するという捉えどころのない世界である。農業を全て科学的に捉えるのは不可能であり、一部を取り出して実験室で再現をしても現場とは違う結果が出ることも多い。しかし、目の前で起こっている現象は確かに起こっており、これを理解するには非科学的と言われる作業手順や方法も取り入れるべきなのではないか”(舘野、2010)と述べられている。

 この文章を個人的に解釈してみる。上記の中での科学とは分析科学であり、物事を細分化し、一部分を切り離して再現することで一般化するというような手法であると考えられる。そして、このような手法では講義でも学んだようなカオスな物自体界である農業の現象をそのまま認識できているわけではない。細分化することでは解明できない多くのことが確かに存在するが、それらを“非科学的”として、間違いであるような印象を与えてしまうこと、分析科学があまりに主導権を握りすぎていることが問題だと考えておられるのではないだろうか。それでは私たちは分析科学をどう捉えていくべきなのだろうか。まずは講義でもあったように物事の全てをそのまま認識できているわけではく、複雑な相関関係をもつものの一部を取り出して解釈しているという大前提がある。このことから分析化学の枠の中で解明できないものを正しくないと思ってしまうことの盲目さ、貧しさを良く理解していく必要があるのではない
だろうか。

 しかしだからと言って、分析科学的な見方が、有機農業などに相入れないものであったり分析することが無意味であるということではない。細分化して分析するというその根本には、カオスな事象を解りたい、理解したいという好奇心があったはずであり、分析とは物事をわかるための努力の方法の一つであると思う。そして、科学は、目の前の事象のすぐにはわからない部分やカオスな部分を解明したい、わかりたいという思いが根底にあるという点で共通するのではないだろうか。科学的に見るとは分析という手法に限らず、どうしたって完璧には理解できない事象を一つずつ、人が知覚できる限りの材料を元に考察を重ね、わかる努力をし続けることではないだろうか。

~~~~~

参考・引用文献
舘野廣幸・「有機農業みんなの疑問」・2010 年 4 月・筑波書房 p.36
金田一春彦、金田一秀穂・学研現代新国語辞典改訂第四版・2009 年 1 月・株式会社学習研
究社

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