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ものぐさ講師の徒然日記

窓際大学教員が、日々の暮らしで感じたことを、徒然なるままに綴っています(日・木曜日に更新)

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【災害から考える12】被災者のストレス軽減のために

Posted on 2020年9月28日 by monogusalecturer2021

◆避難所で見た光景

もしも災害レスキュー隊ができたなら、災害救助、災害復旧にくわえ、被災者への支援活動も担ってもらえれば、とてもうれしい。それには理由がある。

2000年の有珠山噴火災害ボランティア活動に従事したとき、よく目にして悲しかった出来事がある。それは、避難所の受付で、避難されている住民の方が、役場の職員さんに激しい口調で食って掛かっている光景である。

当時、住民の方がたには、有珠山の噴火がいつおさまるかわからないという先の見えない不安と、避難所での厳しい生活によるストレスが襲ってきていた。だから、怒りたくなる気持ちもよくわかる。でも、役場の職員さん方も、同じようなストレスを抱える被災者だった。それでも、休みも取らず、住民の皆さんを支援するため、一生懸命努力されていた。それを知っているだけに、ただ横で見守るしかない自分が悔しかった。

こうした被災地での不和をなくすため、国にはもっと前面に立ってほしい、と思うのである。

◆いろいろと必要な避難所装備

2000年の有珠山噴火当時、避難している住民は1万人を超えていた。学校の体育館や公民館に避難しているのだけれど、パーテーションがなくプライバシーは守れない。次第に畳が搬入されるようになっていったけれど、基本的には固い床の上に雑魚寝しなければならず、疲れが取れない。いつもなら気にならないこどもの声や赤ちゃんの泣き声も、体育館の中ではよく響いてしまうから、ストレスになる。

そうしたストレスを軽減するには、避難する住民が快適に過ごせる装備を、日常的に保管しておかなければならない。被災者ができるかぎり健康で文化的に過ごせるようにするためには、避難所の中のパーテーション、パーテーションの上から被せる防音材、固い床の上に置く緩衝材、避難所でもつかえる循環型のトイレや浴室など、いろんな装備が必要になってくる。

でも、こういった備品を財政規模の小さい自治体だけで準備しておくのは難しい。災害は、国土のどこであっても起こりうるのだから、やはり、国の責任で準備すべきではないだろうか?

災害ボランティアに参加するようになって以来、この思いがずっと消えずにいた。

◆イタリアの取り組み

だから、昨年(2019年)11月13日の『東京新聞』記事で紹介されていた、日本と同じ地震大国・火山大国であるイタリアの取り組みを読んだとき、目から鱗が落ちた。該当部分を引用してみる。

「イタリアでは1980年、南部イルビニアで三千人近くの犠牲者を出した地震の教訓から市民安全省が生まれた。災害時のために、シャワー付きのトイレや、家族ごとに生活できる大型テントとベッド、プロの調理師があたたかい食事を提供するキッチンカーなどの資機材を全国の州ごとに備蓄。災害発生から48時間以内に避難所を設置することを法で定めている。」(※1)

ああ、世界に目を向けたら、とっくにもう、こうした取り組みがあったんだ・・・。

この記事では、被災者が避難所で雑魚寝をしなければならない日本の現実が、避難所の設置が史料から確認できる1930年発生の北伊豆地震のときから変わっていない、という史実も指摘されていた。

やっぱり、何かおかしい。毎年のように発生する災害への備えが、これほど貧弱でいいのだろうか? 

◆自治体任せから国主導の避難対策へ

東京新聞の記事では、新潟大学特任教授の榛沢和彦さんによる次のような指摘もある。

「災害対応は市町村任せで、国が主導しようとしない。国が予算をつけないから市町村の備えが進まない。結果的に『避難所生活は被災者任せ』のような状況に陥っている」(※2)。

災害ボランティアに関わってきた身として、まったく同感である。役場の方たちがどんなに頑張っても、限界があるのだ。自治体と避難している住民との不和は、国が前面に出て、被災者のストレス軽減の装備を整えていけば、かなりの程度は解消できるはずである。

日本ではいま、自然災害が起こったら、その地域の社会福祉協議会が災害ボランティアセンターを設置するよう決められている。私が有珠山の噴火ボランティアに従事したときには、虻田町災害ボランティアセンターに登録した。そのときお世話になった役場職員のHさんから、拙ブログのご感想をメールで頂いた。

虻田町は、平成の大合併で、平成18(2006)年3月に洞爺村と合併し、洞爺湖町になった。Hさんは、いまの町の状況について、合併当時はおよそ12000人いた人口が、今では9000人を切っていること、そのため、合併当時170人ほどいた役場の職員が、今では140人ほどになっていると教えてくださった。そのうえで、次のように指摘されていた。

「この職員数で噴火したらと思うと、ゾッとします。避難所運営一つとっても、職員が足りないのは明らかです。」

2000年代の「三位一体の改革」がなされてからどんどん疲弊している地方に災害対応を任せるいまのやり方は、もはや限界にきているのではないだろうか。先進国並みの災害対応が可能な組織の早急な創設が、コロナ対応と同じくらい重要な国の施策だと私は思う。

【注】

(※1)2019年11月13日付『東京新聞』朝刊25面「こちら特報部 劣悪 100年前から 快適 海外は標準」

(※2)同上記事、24面。

2 thoughts on “【災害から考える12】被災者のストレス軽減のために”

  1. パンダママ より:
    2020年10月3日 12:33 AM

    読ませていただきました。
    『役場職員にくってかかる住民』
    その職員が悪くてと言うのはおそらく無いのでしょうが、長万部に避難した住民の中には、洞爺湖温泉居住者の場合(記憶も曖昧になってきてます)
    3/29避難指示→1.虻田中学校
    3/31避難指示エリア拡大により→2.虻田高校
    3/31山麓噴火→3.豊浦町各施設へ
    4/3?→4.学校避難者は新学期始まるために別の長万部町の避難所へ
    というように、すべての住民ではありませんが、このように多い人では4箇所も避難所を移動させられている背景もあるのです。
    記録に残して行くことって、とても大切ですね。
    続けてくださいね!

    返信
    1. monogusalecturer2021 より:
      2020年10月4日 3:31 AM

      パンダママ様
      拙ブログをご覧いただき、誠にありがとうございます!
      その節はたいへんお世話になり、本当にありがとうございました。
      4か所も避難所を移動させられた方がいらしたのですね。
      そのような状況で、ストレスもたまってしまったのだと思いました。
      コメントを頂き、そういえば、避難所が移動するたび、畳などの備品の移動ボランティアをしたな~という記憶がよみがえりました。
      できれば、頻繁に移動しなくて済むイタリアのような仕組みが整うといいなと思いました。
      当時の状況をご教示いただき、またあたたかいお言葉をたまわり、誠にありがとうございました!
      ものぐさ講師

      返信

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